日本ポジティブサイコロジー医学会
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記者会見

日本ポジティブサイコロジー医学会発足記者会見開催報告

日時 : 2012年9月18日(火) 18:00~19:00
会場 : 六本木ヒルズ49 階 アカデミーヒルズ カンファレンス5

司会進行坪田 一男 理事
参加理事大野 裕 理事長、小玉 正博 理事、佐久間 啓 理事、三村 將 理事

 日本ポジティブサイコロジー医学会は、約40名のマスコミ関係者参加のもと、発足記者会見を開催いたしました。
 本ページでは、記者会見でご説明させていただいた内容の一部を掲載しております(掲載文・画像の無断転載・使用はご遠慮ください)。


『日本ポジティブサイコロジー医学会 発足経緯』

大野 裕 理事長


ポジティブサイコロジー医学会発足の背景

 これまでの日本の精神医療・福祉は、精神疾患患者への対応が中心であった。そのため、「保健」、つまり「予防」の視点、ネガティブな部分だけではなくポジティブな部分から人を見ていく、ということが欠如していたと言える。

 このような認識から、精神医療をより充実させるためには、医療面だけではなく、日本では実際の活動がまだ存在していない「保健」の充実が重要だという声が上がってきている。

 今日の日本の状況をみると、すべての国民がこころを病む可能性があるといっても過言ではない。早期にできるだけ適切な支援をしていくことが必要であるとの要望から、2012年9月6日に「精神保健医療福祉の充実・拡充を求める国会請願書の採択」された。

 また、昨今、こころの健康が身体の健康にも繋がるということが科学的に証明されてきている。幸福感が脳の中の働きと関係しているということ、ポジティブな考え方がアンチエイジング、健康長寿にも関係しているといった様々な研究が進んでいる。アメリカの精神医学会でも、「これからはポジティブサイカイアトリー(Positive Postpsychiatry)が必要になってくるであろう」、ということが大きな話題となっており、国際的にも大きな動きとなりつつある(文献・論文 http://jphp.jp/bunken.html)。


政策からみたこころの健康・精神疾患

 こころの健康を害するとどうなるか?それを考えるに当たり、障害調整生命年 DALY(disability adjusted life years、“寿命・健康ロス”)という指標がある。

 「病気により失われる命 YLL(years of life lost)」と「障害により損なわれる健康的な生活YLD(years lived with disability)」、この2つを合わせたものが障害調整生命年 DALYである。

 先進国では、DALYのトップが精神疾患であり、それだけではなく自殺もDALYで大きな問題として示されている。



精神疾患の“コスト”-イギリスの試算-

 こころの健康、生活をお金で換算したイギリスの試算が下図である。年間の精神疾患によるコスト(治療+労働収益の低下)は、2007年には7.8兆円であったが、2026年には14.2兆円になるであろうと考えられている。日本ではこのイギリスの試算の2倍になるのではないかという推測もある。

 経済的に考えても、個人の健康や幸福のためにも、精神疾患、こころの健康を見直す必要がある。


こころの健康のサービスシステムの転換

 これまでの精神科の治療は、入院、外来、薬物中心の治療であった。将来的には、一般社会において悩みを持たれた方々が相談できるような「精神保健」の仕組みを作っていく必要がある。こういった背景から「精神保健医療福祉の充実・拡充を求める国会請願書」を提出するに至った。



こころの健康政策構想会議

 「精神保健医療福祉の充実・拡充を求める国会請願書」の背景には、72万人の署名と300をこす自治体の賛同があった(「こころの健康を守り推進する基本法(仮称)」の立法を望む意見書採択参照)。


こころの健康のサービスシステムの転換

 現在、精神科の領域で様々な政策、改革が行われている。病院だけではなく、アウトリーチ医療、精神科救急医療の整備、認知症の対応、家族だけではなく様々形で支える、病院のスタッフの配置の工夫等、厚生労働省の検討チームで様々な改革が行われており、今後の精神科医療はより良いものになっていくであろうという期待がもたれている。

 一方、悩んだ人を地域で支えようという「市民力」がまだ小さく、議論も十分になされていない。医療だけでこころの健康を守る、維持することはできない。病気を治療する医療と病気を防ぐ保険の活動の両輪あってこそ、こころの健康が守られるのである。

 「こころの健康を地域で守る」という取り組みにおいて、ポジティブサイコロジーやポジティブサイカイアトリーが役立ってくると考えられる。



実践例:女川町における震災後の地域精神保健福祉体制

 女川町には、「こころ」と「からだ」と「暮らし」を一体で支援する仕組み、「女川町こころとからだと暮らしの相談センター」がある。そこで活躍している方々が、「こころとからだの専門員」、「くらしの相談員」である。

 専門員、相談員が市民の相談に乗る、家庭訪問や談話会を通じて、問題を解決していく。また、地域で解決できない問題が生じた場合には、医療機関に相談し解決を試みる。地域と医療の連携が行われている実例である。

 このような仕組みの中で、医療面からは、地域の保健スタッフに「認知行動療法」を伝え、身に着けていただくことで、地域の活動や病院で役立てていただいている。

 「認知行動療法」とは、行動することで気持ちを生き生きとさせる、考えをうまく切り替える、問題を適切に解決する、上手く自分の気持ちを相手に伝え、コミュニケーションを維持するスキルを身に着けるといったストレスに上手に対処するための方法を習得していく治療法である。また、それを今度は自分がストレスを抱えている人を支援し、お互いにプラスの面、ポジティブな気持ちを高めていく、個人の心のみならず社会そのものが健康に向かっていくことにもなる。そのような面から、日本ポジティブサイコロジー医学会を役立てることができるであろうと考えている。


補足:認知行動療法とポジティブサイコロジー

 ポジティブサイコロジーは、心理学者のMartin Seligman先生が中心となって開始された心理学である。一方、認知行動療法の創始者Aaron Beck先生は精神科医であるが、2人はとても近い立場にいた。

 Aaron Beck 先生が認知行動療法を考える際、最初に目を向けたのは、うつ病の方はどうして悲観的になってしまう、悲観的になると行動が制限され、ますます「考え」は落ち込んでしまう、ということである。上手くいかない時は、どうしても「上手くいかない」ということにのみ目を向けてしまい、自分は駄目だと考えてしまう。本当に駄目なのは「上手くいかない」そのことだけが駄目なのだが、いつの間にかすべてが駄目だと考えてしまう。

 このような時、もう一度全体を見直してどこが上手くいっていないのか、どこが上手くいっているのかをしっかりと見極め、自分の力を上手に発揮できるようにする。その過程で、不安な気持ちや落ち込んだ気持ちを軽減することができるというアプローチである。

 認知行動療法は、1980年代から様々な研究が行われ、薬物療法と同様の効果があるといわれてきた。また、薬物療法と認知行動療法を組み合わせることにより、より一層効果がある、発症や再発を予防することができる治療であるというプラスの面もわかってきている。

 このように、「考え方に目を向けてしなやかな心の力を育てる」という基本コンセプトは、ポジティブサイコロジーと共通する。ただプラス思考をすれば良いのではなく、自分の力をポジティブに生かせるような心の持ち方が大切である。

「こころのスキルアップ・トレーニング」 うつ・不安ネット(http://cbtjp.net


『世界の中のポジティブサイコロジー』

坪田 一男 理事


 ポジティブサイコロジーとは何か?「ポジティブ心理学の父」と呼ばれている、Martin Seligman先生は「個人と社会が成長し、花開くためのサイエンス」と説明している。

What is Positive Psychology?
“Positive psychology is the scientific study of what enables individuals and communities to thrive.”

 ポジティブサイコロジーの国際的な学術団体は、IPPA (International Positive Psychology Association) であり、2007年に設立された。第1回目の会議から1400名程度の参加者があり、昨年開催された第2回の会議には、2000名の参加者を要する団体となっている。



IPPAにおけるキーパーソン

 IPPAにおけるキーパーソンは、Martin Seligman先生、Edward F. Diener先生、Christopher Peterson先生である。その中でも、Martin Seligman先生は、ポジティブサイコロジーの可能性について、2nd World Congress on Positive Psychologyで次のような発表をしている。

軍隊などでは、ポスト・トラウマティックシンドローム(PTSD)で自殺やドラッグ依存症に陥ってしまう軍人がいる。それを予防、治療しようとしてきたが、これまでなかなか解決することができなかった。ポジティブサイコロジーを軍隊、退役軍人に伝えることで、状態が少し良くなるのではないかというアプローチが評価されてきている。

幸せと寿命に関する研究の現状

 長い間幸福はサイエンスの対象とはなりにくかった。それは、幸福を測ることが客観的に難しく、サイエンティフィックなアプローチが難しかった。しかし、この流れは変わりつつあり、最近になって少しずつ幸福を、科学的手法を使って評価しようとする流れが出てきている。幸せというものが研究の対象となってきた。

 国内では、国立がんセンター津金昌一郎先生らが「幸せと寿命の関係」についての研究を10年位わたって行ってきた。人生を楽しんでいる人ほど、幸せな人ほど病気になりにくいということを2009年Circulation(2009 Sep 15;120(11):956-63. Epub 2009 Aug 31) に投稿している。

Perceived level of life enjoyment and risks of cardiovascular disease incidence and mortality: the Japan public health center-based study.
Shirai K, Iso H, Ohira T, Ikeda A, Noda H, Honjo K, Inoue M, Tsugane S; Japan Public Health Center-Based Study Group.
Public Health, Department of Social and Environmental Health, Osaka University Graduate School of Medicine, 2-2 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-9871, Japan

 このような研究が、近年、次々と発表されており、Science誌 (Science. 2011 Feb 4;331(6017):542-3) にも、Psychology. Happy people live longer.(Frey BS, Warwick Business School, University of Warwick, Coventry CV4 7AL, UK)の総説が掲載された。

 アンチエイジング医学という視点から考えても、幸せな人が長生きできるというエビデンスがどんどん出てきている以上、サイエンスとしてポジティブサイコロジーの研究を進めていくべきであると考える。


慶應義塾大学での研究

 最近、自分たちの研究でドライアイの症状のある人は不幸せであるということがわかってきた。確かに、眼が乾いていれば、不幸せに感じるであろう。ところが、ドライアイの「症状」はないがドライアイの「サイン」がある人、例えば、検査結果として涙の量が少ない、目に傷があるということは幸せとは関係がなかった。

 つまり、検査結果はドライアイではないが、ドライアイの症状を感じ辛いと思っている人が最も不幸であることがわかってきた。病気と幸せとは関係するのではないか、幸せな人は痛みを感じにくいのか、今後研究を進めていき、将来は日本から世界に発信できる基礎、臨床のデータを発表していきたい。


『第1回学術集会のご紹介』

佐久間 啓 理事


 東日本大震災から1年半が経ち、地震と津波、そして福島原子力発電所放射能被害、復興、再生と被災地では動きを見せている。しかし、放射線の問題に将来の見通しがつかない福島県民は、この状況に耐え続け暮らしている現状がある。

 生活、産業、医療・福祉、経済、様々な面で影響が出ている福島県は、この大きな被災からどう回復するのか、どのように再生していけるのか、考えなくてはいけない状況にいる。

 福島県民が、そして日本が元気になるためには、また、日本全体が3.11を乗り越えるためには、福島県民がまずは乗り越えていかなければならない。そう意味では、第1回ポジティブサイコロジー医学会学術集会を福島で開催し、たくさんの方々に「ポジティブに生きるということはどういうことなのか?」を考えるきっかけにしたいと考えている。

 急性の強いストレスと、解決の見通しが立ち難い慢性のストレスにさらされる中で、人はどのように困難を受け止め、乗り越え、そして前向きに生きることができるのか?

 現在も多くの福島県民が復興に向けて前向きに歩んでいるが、これから将来に向けて、よりポジティブに、より幸せを感じて生きて行くためには、どのように考え、どのように行動すべきか、心のエキスパートの先生方を学会にお呼びし、様々なお話や考え方を聞かせていただき、これからの福島県について、一緒に考える機会としたい。

第1回学術集会のプログラムはこちら


『質疑応答』

小玉 正博 理事

 これまでは、病んでいる方、苦しんでいる方を助けるという方向からサポートしてきた。臨床健康心理学、ポジティブ心理学という視点で、その人が持っている力、潜在的な力を見つけ、いかに伸ばすか、専門家がサポートしていくことが大切だと考えている。

三村 將 理事

 認知療法、認知行動療法、医学の中でのポジティブな側面を見ていくという点で、心理学の領域と精神医学の領域をつないでいければと考えている。ポジティブに物事を考えていくことに関してもバランスも大事である。


Q. これからの活動方針、他の学会との連携について。

 これからの活動はまだ十分に議論はされていない。日本抗加齢医学会や、日本認知療法学会、精神科病院の団体などと連携しながら、活動を行っていきたい。第1回学術集会では、日本抗加齢医学会より後援をいただいている。

Q. ポジティブサイコロジーのこれからの発信の仕方について。

 幸福度をいろいろな指標から見ていけるとよい。学会は専門家の集団になりがちだが、いろいろな意見をいただきながら、それを具現化できるよう活動をしていきたい。本学会は一般の方々に役立つような学会となれればよい。

Q. 現在の研究について(坪田一男理事)

 豊かな環境でマウスを育てる(Environmental richment)と幸せでご機嫌なマウスができるのではないか?という研究を進めている。
 現状でも、同量の食べ物を食べても、豊かな環境で過ごしているマウスはそうでないマウスに比べて、肥満にならないといった結果も出ている。引き続き研究を進めていきたい。

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