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ポジティブサイコロジー

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ポジティブサイコロジー

新型コロナウイルスの不確実性に直面する中、冷静さを保つのを助ける簡単なエクササイズ

小林正弥理事のご推薦により、ポジティブサイコロジーの創始者であるマーティン・セリグマン氏が寄稿された新型コロナ感染症の不確実性に対して冷静さを保つための簡単なエクササイズを紹介した文章の翻訳を掲載致します。尚、セリグマン氏より、掲載許可を頂いております。

記事名:A simple exercise to help stay calm in the face of coronavirus uncertainty
雑誌名:Medical Press, March 16, 2020

https://medicalxpress.com/news/2020-03-simple-calm-coronavirus-uncertainty.html

【要 約】
コロナウイルスに関する状況が日々変わってきており、このような不確実性は不安や恐怖をもたらします。ポジティブサイコロジーの創始者であり、ペンシルベニア大学ポジティブサイコロジーセンター長のマーティン・セリグマン氏は「人間のマインドは自動的に最悪のケースに偏ってしまいます。それも、しばしば不正確なものに」と述べています。「破局的思考は進化における適応したマインドのフレームワークであるが、通常は非現実的にネガティブなものです。」自分のマインドを再びフォーカスし直すために、セリグマン氏は「Put It in Perspective (大局的に見る)」という簡単なエクササイズを提案しています。それは私たちのマインドが最初に行う最悪のシナリオを想起し、その後、最善のシナリオへと移り、最も現実的なシナリオに落ち着くように進めます。この考えは思考を非合理的なものから合理的なものへと再び方向づけることです。

ステップ1: 自問自答する 「起こりうる最悪のシナリオは何か?」

これは皆さんの年齢や健康状態によって変わるでしょう。セリグマン氏は77歳でペンシルベニア州Montgomery郡に住んでおり、コロナの感染拡大を予防して最近、閉鎖されたと自身のシナリオを例として挙げます。彼の最も重々しい考えは自動的に極端な方へと向かいます。「私は確実に感染します。なぜなら私の娘はここの学校に行っているからです。一旦、感染すると、厳しいケースとなり、70代で死ぬでしょう。」

ステップ2: 次に自分自身を最善の結果を考えることへと仕向ける

このステップの段階では、セリグマン氏は「私は感染しませんし、家族もしないでしょう。終息して、大丈夫でしょう。」と考えました。

ステップ3: 次に、最も起こり得そうなことを考慮する

セリグマン氏は説明した時、彼は最も現実味のある結果として、「私は多分、最終的には感染するかもしれません。しかし多くの大人と同じように、ほとんど無症状もしくはおだやかなものでしょう。たとえリスクが高い年齢といっても、非常に健康的ですので、病気で1~2週間は不調でも、後に回復するでしょう」としました。

ステップ4: 最終的に最も現実味のあるシナリオに向かう計画を作成する

これは最も起こり得ないことについてエネルギーを浪費することとは異なります。厳しい状況となる不測の事態へと向き合うためのものです。皆さんの計画は個別の状況によります。例えば、自分が風邪を引いた時は、子どものケアを確保する必要があるか?家にいないといけないならば、十分な食料や薬はあるか?仕事へはどのような意味があるのか?自分が高リスク集団であれば、誰か自分のことをケアしてくれる人はいるか?などです。セリグマン氏はこのエクササイズを多くの状況や異なる集団で試し、その効果を実証してきました。



当会理事の三村將先生より、国際双極性障害学会(ISBD)と光療法・生物リズム学会が出している、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行下における、こころの健康維持のコツ」という文書が大変有意義な情報であるため、当医学会の先生方にも是非ご共有頂きたいとご推薦を賜りました。和文に関して、文書を添付しておりますので、どうぞご活用ください。

執筆者:Holly Swartz先生(University of Pittsburgh)
https://www.psychiatry.pitt.edu/about-us/our-people/faculty/holly-swartz-md
英 文:https://www.isbd.org/Files/Admin/Social_Rhythms_PSA_ISBD_Task-Force.pdf
和 文:PDFファイルダウンロード
推薦者:加藤 忠史先生(順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学/医学部精神医学講座主任教授)
翻訳者:宗 未来 先生(東京歯科大学)

※本提言「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行下における、こころの健康維持のコツ」については、その引用・複製・転載は自由です。


・ 2012年9月18日に開催された発足記者会見の報告をご参照ください。

ポジティブサイコロジーとは何か?

ポジティブサイコロジーは幸福感や感謝等のポジティブな感情やウェルビーイング、強みや美徳などの人間のプラスの特性を科学的に研究する学問です。

従来の心理学は、うつや不安などのマイナスの部分に目を向け、それを解決していく学問でしたが、人間の本来持っている力に目を向けることで、より良く生きていくことができるという考えから生まれたのが、ポジティブサイコロジーと言えます。 ポジティブサイコロジーは、「ポジティブサイコロジーの父」と呼ばれている心理学者、マーティン・セリグマン博士(Martin Seligman)が提唱してアメリカを中心に広まり、2007年に International Association of Positive Psychology(IPPA・国際ポジティブサイコロジー協会) が設立されました。現在は、心理学だけでなく、医学や科学など様々な面から研究されるようになっています。

その後、日本にもこの考え方が知られるようになり、日本ポジティブサイコロジー医学会(2012年7月設立)が発足して、主に医師を中心に活動を行っています。

これまで、医学の分野でも病気、悩み、苦しみ等のマイナスの部分に目が向けられてきました。今後、自然治癒力や回復力、あるいは心の自己コントロールにも科学の目を向け、これらを生かせるような健康法や治療法を確立できれば、より人々のQOL(生活の質)が向上すると考えられます。


マーティン・セリグマン教授とは?

マーティン・セリグマン博士は、「学習性無力感(Learned Helplessness)」を提唱したことで知られる心理学者です。「学習性無力感」とは、「一生懸命努力をしても成果が得られないと、だんだんとやる気がなくなっていく」、「長期にわたってストレスフルな環境におかれた人は、その状況から逃れようとする努力すらしなくなる」というものです。

やる気がなくなる背景には、「いくらやっても報われない」、「自分は駄目だ、無力だ」という事を学習して、益々やる気を失ってしまうという事があります。

これに対し、マーティン・セリグマン教授は、乗り越えるためにプラスの力、ポジティブな力が大事だということを提唱しました。ただし、単純にプラス思考でいればいいという訳ではなく、現実を直視しながら、プラスの部分を少し多めに、マイナスの部分にもバランスよく目を向ける事が大切であると説いています。


ポジティブサイコロジーの科学的な実証は?

ポジティブサイコロジーは、実は心理学だけではありません。心の動きの背景には脳の動きがあるので、脳科学、生物学を含めて研究が進められています。

アメリカの研究で、幸せ感の強い人は長生きをするのか?という研究が行われており、有名なものとしては、長期に渡って研究された、Nun(尼僧) Study があります。修道院の尼さんたちは、皆同じ環境で、同じスケジュールで生活をしていますが、彼女達の日記を検証したところ、日記にプラスの記述が多い人ほど長生きをしているという傾向が認められました。 プラスの部分に目を向けている人は、体の調子も良くなり、病気になりにくく長生きすることに繋がる。これは逆に言うと、マイナスの部分ばかりに目を向けていると、気力が落ち、免疫が落ちたり自律神経が乱れたりする。これは、ストレスがたまると風邪をひきやすくなるということにもつながります。つまり、ストレスを上手くコントロールすることができれば、病気にもかかりにくくなり、それが健康と長生きにつながってくると言うことができます。

日本でも、生活を楽しんでいる人ほど長生きするという研究があります。ただ長く生きればいいという事ではなく、楽しみながら健康に長く生きられれば一番いい。そういったプラスの力を発揮するにはどうすればいいのかを具体的に提示できるように、今後の研究が期待されます。

すでに、認知行動療法の領域では、考え変え方を切り替えるという方法を使えば、やる気が出て、パフォーマンスを上げることができるという研究結果も出てきています。現在、やる気が出てきたときの脳の働きなども検証されており、今後はさらに、脳科学や生物学、遺伝子学なども取り入れながら、様々な分野の研究者により学際的な研究を目指しています。


プラスの部分に目を向けるのはなぜ?無理にポジティブになる必要はあるのか?

もともと人間はよくないことに目を向けがちです。それは、昔から生き延びていくためには危険を回避することが重要で、必要かつ重要な行動・思考でした。

しかし、狩猟をしていた次代と現代とでは、生活環境が大きく異なっています。現代人はたとえばオフィスでは常に戦闘態勢でいるような状況があります。仕事や人間関係で起きる様々な出来事を、どう捉えていくかは、非常に重要な事であり、それがうまくできないと精神的なバランスが崩れてうつになったり、胃腸炎を起こしたりするなど、心身の健康を害してしまいます。そうした社会や環境との接し方について考えたり学んだりトレーニングしたりする機会は今まであまりありませんでした。そういった生活環境における心のあり方、健康にも、ポジティブサイコロジーは大きく関わってくるものと言えます。

ただし、ポジティブサイコロジーは無理にポジティブになろうというものではありません。プラスの面ばかりに目を向けていると、重要な問題に目が向かなくなってしまいます。現実を丁寧に見ながら、プラスとマイナスの両面にバランスよく目を向けていくことが重要です。


今後のポジティブサイコロジーの展望

現在、会社や学校などの日常生活で、プラスの感情を維持させる、また、仲間意識を育てるような研究もおこなわれています。マウスを使用して、幸福感を感じているマウスと辛さを感じているマウスを比べ、脳や体にどのような変化が起こっているかを研究している研究施設もあります。

今後、人間の脳でも検証が進み、実証をしていくことで、ポジティブサイコロジーという学問がより明確な形を呈し、現代社会に有意義なひとつの指針となって人々の生活に役立てられる日がくることでしょう。

今後、ポジティブサイコロジーを心理的な面だけでなく、脳・肉体などを科学的に研究してその効果を医学的に検証し、そしてさらにはその方法論を構築し、社会に広めていくことは、これからの日本と世界の人々の心身の健康と社会の平和に大きく役立つものと考え、この研究に力を注いでいます。

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